調べれば分かることは、AIが答えてくれる時代になりました。研修で「知っていること」を増やしても、それだけでは差がつきにくくなっています。
差がつくのは、実際にその状況が起きたときに、動けるかどうかです。クレームの電話が鳴ったとき、他部署と利害がぶつかったとき、情報が足りないまま決めなければならないとき。知識として知っていることと、その場で判断できることの間には、距離があります。
この距離を縮める手段として、ロールプレイ型の体験研修への関心が、今高まっています。この記事では、なぜ今ロールプレイ型の体験が求められているのか、擬似体験がなぜ理解の解像度を上げるのか、そして擬似体験の中でも、ボードゲームが向く課題と向かない課題を、日頃いただく問い合わせ・相談内容を根拠に解説していきます。

合同会社ASOBOARDでは、貴社の目的・課題に合わせた最適なオリジナルボードゲーム開発や研修プログラムの設計を専門としています。まずはお気軽にご相談ください。
<ASOBOARDの強み>
- ビジネス課題をゲームに落とし込める課題解決のプロ集団
- 事業開発、採用コンサル、マーケターなど、複合的な専門性を持つメンバーで提案
- 企画から製造までの一気通貫に加え、ルール検証やデザインのみなど柔軟なご支援が可能
「知識」から「状況への対応」に移行する研修の価値
研修会社自身が、知識付与の代替を認めている
研修業界の大手、株式会社インソースは、2026年7月21日付の「26年9月期 第3四半期 連結業績説明資料」(p.33)で、次のように記載しています。
「インソースの教育の目的は行動変容。知識付与は生成AIで代替可能だが、職場での実践を目的としたワークやロールプレイング、気づきは生成AIでは代替不可能」
これは同社による自己評価でですが、研修の提供側が公式資料で「知識付与はAIで代替できる」と明言していることは、市場の認識を示す一つの材料だと捉えています。
求められるスキルが変わるという予測
世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」は、雇用主が2030年までに労働者のコアスキルの39%が変化すると予想していると報告しています(2023年版は44%)。
同レポートで、雇用主が最も重視するコアスキルの1位は分析的思考で、約7割の企業が必須と見なしています。2位はレジリエンス・柔軟性・機敏性です。
ここで注意したいのは、このレポートが「知識が不要になる」と述べているわけではない点です。また、調査は世界の雇用主を対象にしたもので、日本企業に限った数字ではありません。読み取れるのは、状況を分析し、変化に対応する力が重視されている、という方向性までですが、分析的思考はAIが得意としている領域であり、レジリエンス・柔軟性・機敏性という性質は、AIでは大体できない人間にしか求められない要素だと考えます。
ロールプレイ型の体験需要が高まっている3つの理由
前章で述べた様な時代の変化がある中で、ロールプレイ型の体験需要が高まっている理由・背景について考えたいと思います。Youtubeでも「営業ロープレ」と調べると多くの動画が検索表示されています。
| 調査結果の項目 | 内容 |
|---|---|
| NTTドコモの導入 | 自社開発の「AIロープレ」を、2025年10月6日から全国2,048店舗に導入(AIがロールプレイの実施・採点・フィードバックを担う) |
| 導入側のメリットの整理 | 時間や場所を選ばず練習できる、評価基準が統一される、少人数で運営できる、など(AIロールプレイを紹介する解説記事) |
一方で、国内のロールプレイ型研修の市場規模や導入率を示す公的な統計はありません。「盛り上がっている」という表現は、個別の導入事例や、AIを活用したロープレ特化型プロダクトなど、各社の発表にもとづくものとして読んでほしいのですが、ではなぜこの動きが起きているのかについての、当社の考察を書いていきたいと思います。
理由1:差がつく場所が「知っている」から「使う場面」に移った
知識の入手コストが下がるほど、知識そのものでは差がつきにくくなります。残るのは、その知識を、状況の中でどう使うかです。研修に求められる成果も、「理解した」から「実務で動けた」へと重心が移っています。
理由2:AIが「相手役」を安価に務められるようになった
従来のロールプレイは、相手役を務める人と、評価する人が必要でした。調整の手間がかかり、1〜2回で終わりがちでした。AIが相手役になることで、時間と場所を選ばず、何度でも練習できるようになりました。供給側の制約が緩んだことで、需要が顕在化した面があると考えられます。
理由3:教える側が「正解」を持ちにくくなった
スキルの約4割が変わる(前節の予測)ような環境では、「この場面ではこうする」という正解を教えること自体が難しくなります。正解を伝えるより、状況に対応する経験を積ませる方が、変化に強い、という発想につながります。
変化に強い人材を求める動きについては、ひと昔前にトレンドワードになっていた「VUCA」と意味合いは変わっていないと捉えます。AIによって求められていた潜在的な要素が顕在化しただけとも、言えるのではないでしょうか。
AIロープレで足りること、足りないこと
ボードゲームを勧める記事としては書きにくいところですが、書いておきます。AIを相手にしたロールプレイは、多くの課題に対して有効ですが、AIロープレが向いていることと向いていないこと・限界みたいなこともあると思います。
AIロープレが向くこと
- 接客・商談・面談など、1対1の対話の練習
- 同じ場面を、何度も繰り返す練習
- 評価基準をそろえた、標準的なフィードバック
解説記事自体が述べている限界
AIロールプレイを紹介する解説記事自身が、次の点を限界として挙げています。
- 緊張感が薄れる場合があり、実際の商談や顧客対応とのギャップが課題になり得る
- AIからのフィードバックは参考材料であり、判断力や対応力は別途鍛える必要がある
- 導入時に、シナリオの具体化や評価基準の明確化などの準備が必要
当社が考える、AIロープレとボードゲームの違い
擬似体験できるという特性は、AIロープレもボードゲームも同じですが、AIロープレとボードゲームには次の違いがあると考えています。
| 項目 | AIロープレ | ボードゲームによる擬似体験 |
|---|---|---|
| 練習の対象 | 1人の相手との対話 | 複数の関係者・限られた資源・時間の経過の中での判断 |
| 返ってくるもの | 話し方・応対への評価 | 判断が連鎖して起きた帰結 |
| 相手の存在 | AIが演じる相手 | 実際の人間が、別の立場で動く |
たとえば「部門間の調整」を考えます。1人の相手に説明する練習なら、AIロープレで足ります。ところが、複数の部署が、それぞれ違う情報と目標を持って動く中で、自分の判断が全体にどう波及するかを体験するには、1対1の対話では構造が足りません。
なお、AIロープレの設計次第で補える部分はあります。そのため、両者は競合するというより、練習したい対象によって使い分けるものだと考えております。
擬似体験が「解像度」を上げる仕組み
選ばなかった側の結果が見える
実務では、選ばなかった方の結果は見えません。追わなかった案件がその後どうなったか、止めていれば起きなかった事故は、記録にも残りません。何年やっても、「あのときの判断が正しかったのか」を、実務は教えてくれません。
人が判断を学べないのは、能力の問題ではなく、結果が返ってこない構造の問題です。
盤面の上では、隣のチームが別の判断をして、別の結果になります。同じ局面を、選び直してもう一度回せます。これが、擬似体験が解像度を上げる、最も根本的な理由だと考えています。
「先に体験し、後で説明を聞く」順序の効果
学習科学には、先に問題に取り組ませてから指導した方が、概念理解が深まるという研究があります(Productive Failure。Kapur, 2008など)。ある研究では、先に問題に取り組んだ群のほうが、概念理解と転移で有意に上回りました。一方、手続き的知識は両群で同等でした。
ただし、この研究は中学生を対象としたSTEM(数学・理科系)学習の結果です。紹介した資料自身が、効果が確認されているのは初等〜高等学校のSTEM学習に限られ、大学や人文・芸術領域、そして企業研修での効果は確認されていないと述べています。また、効果には「生徒が自分で解法を生成する」ことが条件になるとされています。
したがって、これを企業研修にそのまま当てはめることはできませんが、「先に体験させ、振り返りで説明を重ねる」という研修設計を考える際の後押しにはなるでしょう。
シミュレーションゲームの学習効果に関するメタ分析
Sitzmann(2011)は、コンピュータベースのシミュレーションゲームの学習効果を、65件の研究・計6,476名のデータでメタ分析しました。従来の指導法を比較群としたとき、ゲームで学んだ人のほうが高かった割合は次のとおりです。
| 指標 | 比較群との差 |
|---|---|
| 訓練後の自己効力感 | 20%高い |
| 宣言的知識(知っている) | 11%高い |
| 手続き的知識(やり方が分かる) | 14%高い |
| 保持(時間が経っても覚えている) | 9%高い |
ここで必ず押さえておきたい3つの点があります。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 対象はコンピュータ上のゲーム | ボードゲームを対象にした結果ではありません。そのまま当てはめることはできません |
| 効果が高まる条件がある | 能動的に提示される場合、何度でもアクセスできる場合、他の指導法を補う形で使われる場合に、効果が高かった |
| 比較群が能動的だと劣る | 比較群の指導が学習者を能動的に関与させる場合、ゲームの方が学習量は少なかった。また出版バイアスの強い証拠も報告されている |
この結果から言えるのは、「ゲームにすれば学べる」ではありません。「座学などで得た知識を、反復できる形で使う場面として組み合わせたとき」に効果が出やすい、ということです。
擬似体験でなければ、学びにくい4つの条件
では、どんな課題が擬似体験に向くのか。実務の中では学びにくい条件を整理し、盤面でそれをどう変えるかを対応させます。
| 実務で学びにくい理由 | 例 | 盤面で変えること | 判断学習の4条件との対応 |
|---|---|---|---|
| 結果が返らない/遅れて返る | 追わなかった案件の結末は分からない | 判断の結果が、数ラウンド内に目に見える形で返る | 結果が返ってくる |
| 失敗の実害が大きい | 撤退判断の誤りは、取り返しがつかない | 失敗しても実害が出ない | 失敗しても実害がない |
| めったに起きない | 緊急対応、大型クレームは年に数回 | 同じ種類の判断が、短時間に何度も来る | 同じ判断をやり直せる |
| 相手の事情が見えない | 他部署が何を優先しているか分からない | 立場の違う役割を、実際の人間が演じる | 自社の業務そのものが題材になる |
向いている学習テーマの例
ゲームの仕組み(メカニクス)について、別の記事で19種類を体系化していますのでそちらの記事を参考にしてみてください。ここではその一部を記載します。
| 学習テーマ | 盤面での再現 | 使う仕組み |
|---|---|---|
| 部門間の調整 | 各人が別の情報を持ち、確認しないと失敗する | 情報非対称 |
| 資源配分・優先順位 | 限られたコマを置く枠を取り合う。先に取られると選べない | ワーカープレイスメント |
| 撤退判断・サンクコスト | 続けるほど報酬もリスクも増える | プッシュユアラック |
| 緊急時の判断 | 制限時間内に処理する | リアルタイム制 |
| 全社目標と部署目標のズレ | 全体では協力、個人にも別の勝利条件がある | 半協力 |
| 短期成果と長期投資 | 序盤の投資が後半に効いてくる | エンジンビルド |
【「ゲームメカニクス×学習目的 対応表」記事へのリンク】
▼ 自社の課題が、擬似体験に向いているかを確認したい方へ 課題を「実務で学びにくい条件」に照らして整理するところから、ご一緒します。向いていない場合は、その旨をお伝えします。 無料で相談する
ボードゲームが向かないこと
擬似体験の有効性を述べるなら、限界も書く必要があります。
| 向かないこと | 理由 | 向く手段 |
|---|---|---|
| 話し方・声のトーン・表情 | 盤面は意思決定の練習であり、対話の身体的な側面は扱いにくい | 人またはAIによるロールプレイ |
| 純粋な知識の習得(法令、製品知識) | 「知っている」段階は、ゲームにする利点が小さい | 座学、eラーニング、AIによる学習 |
| ゲームだけで完結させること | ゲームは「体験」を提供するだけで、内省と概念化は振り返りが担う | 振り返りの設計とセット |
| 現実との乖離 | 盤面の結果は設計者が作ったモデルであり、現実そのものではない。モデルが現実とずれると、誤った学びを生む | 実務との対応づけを振り返りで必ず行う |
最後の「現実との乖離」は、見落とされやすい点です。**盤面は現実の縮図ではなく、設計者の仮説です。**だからこそ、ゲーム内の出来事が実務のどの場面に対応するのかを、事前に整理しておく必要があります。
手段をどう組み合わせるか
ここまでの整理から、研修の設計を次のように組み合わせることを提案します。
| 目的 | 適した手段 | 備考 |
|---|---|---|
| 知識を入れる | 座学、eラーニング、AI | AIで代替しやすい領域 |
| 対話の型を反復する | AIまたは人によるロールプレイ | 1対1の場面に向く |
| 複数の関係者の中での判断を体験する | ボードゲームによる擬似体験 | 振り返りとセット |
| 実務で試す | OJT | 実害が出る可能性がある |
Sitzmann(2011)の結果が示すように、他の指導法を補う形で使うと効果が出やすいことを踏まえれば、ボードゲームを「座学の代わり」ではなく、知識を状況の中で使う場面として配置するのが現実的です。
ボードゲームの制作方法や費用については下記の記事を参考にしてみてください。

まとめ
いかかがでしたでしょうか。AIが知識付与を代替しやすくなり、研修の価値は「知っている」から「その場で判断できる」に移っているロールプレイ型の体験への関心はこれからさらに高まる可能性があると考えています。
需要が高まる理由は、①差がつく場所の移動 ②AIが相手役を安価に務められる ③正解が陳腐化する速度の3つと考えており、ボードゲームは、複数の関係者・資源制約・時間の経過の中での判断に向くと考えています。
興味がある人は、無料相談でお待ちしております。
オリジナルボードゲーム制作の無料相談実施中!

弊社ASOBOARDは、貴社の組織課題や目的に完全にフィットするオリジナルボードゲームを提供しております。
「まずは一度試してみたい」「具体的な費用感を知りたい」といったご相談や体験会のご要望も歓迎しております。企画から全て任せたい企業様はもちろん、デザインなしでゲームルールの検証・バランス調整のみに重きを置きたい、あるいは企画・デザインは完了し印刷・製造のみを依頼したいといった、あらゆる制作段階に対応可能です。
- 企画から製造まで全て任せたい方は【一気通貫サービス】
- ルールのバランス調整のみ頼みたい方は【検証特化サービス】
- デザインと製造のみを依頼したい方は【製造特化サービス】
貴社のフェーズやリソースに合わせて、最適な形でプロジェクトを支援いたします。まずは「どんな課題を解決したいか」、その想いをお聞かせください。
よくある質問
Q. AIロープレを導入済みです。ボードゲームは不要ですか?
A. 練習したい対象によります。接客や商談などの1対1の対話はAIロープレで足りる場合が多くあります。一方で、複数の部署や立場の中での判断を体験させたい場合は、別の手段が必要になることがあります。併用を前提にご相談いただけます。
Q. 「ゲームで学ぶ」ことの効果に、科学的な根拠はありますか?
A. コンピュータベースのシミュレーションゲームについては、メタ分析(Sitzmann, 2011)があり、自己効力感や知識で従来の指導法より高い結果が出ています。ただし、これはボードゲームを対象にした研究ではなく、能動的な指導法との比較では優位とは限りません。ボードゲーム研修自体の効果は、設計と振り返りの質に大きく左右されると考えています。
Q. 擬似体験で学んだことは、実務に活かせますか?
A. 盤面の出来事と実務の場面を、振り返りで対応づけられるかにかかっています。対応づけがなければ、「楽しかった」で終わります。当社では、ゲーム内の出来事と実務の場面の対応表を、ファシリテーションガイドに含めています。
Q. 体験型研修が苦手な社員がいる場合は?
A. 勝敗をチームに帰属させる、役割を明示する、個人成績を公開しない、といった設計で負荷を軽減できます。ボードゲームは卓上で完結するため、身体的な負荷もありません。ただし、これは設計次第であり、自動的にそうなるわけではありません。
Q. 知識研修をなくした方がよいということですか?
A. いいえ。知識は判断の前提です。AIで代替しやすい部分は効率化し、浮いた時間を、状況の中で使う練習に充てる、という考え方をおすすめします。
出典
- 株式会社インソース「26年9月期 第3四半期 連結業績説明資料」(2026年7月21日)p.33 https://www.insource.co.jp/resource/pdf/ir/__ie_26072107.pdf
- World Economic Forum, The Future of Jobs Report 2025, Chapter 3 Skills outlook https://www.weforum.org/publications/the-future-of-jobs-report-2025/in-full/3-skills-outlook/
- Sitzmann, T. (2011). A meta-analytic examination of the instructional effectiveness of computer-based simulation games. Personnel Psychology, 64(2), 489–528.(数値は要約資料 https://karlkapp.com/?p=4333 で確認)
- Kapur, M. (2008). Productive failure. Cognition and Instruction, 26(3), 379–424.(研究結果は紹介資料 https://www.psychologyinaction.org/?p=1233 で確認)
- NTTドコモ「AIロープレ」全国導入(2025年10月6日〜) https://dxmagazine.jp/?p=168895
- AIロールプレイの解説記事(メリットと限界) https://weel.co.jp/media/ai-role-playing/

